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メンタルケア

「天職」に就けたならば、人はしあわせになれるのか

2022.10.28

こちらの記事はLIFE IS LONG JOURNAL様より許可を得て転載しております。
https://life-is-long.com/article/5440


あなたにとって、「働く」とは何ですか?

わたしの「働く」が始まったのは、大学生になった頃です。

恐らく、多くの人が経験しているように、アルバイトが最初の「働く」経験でした。

家庭教師、大好きなスープカレーを賄いにしたくて応募したスープカレーのお店、不定期にスポットで入る交通量をカウントするアルバイト、成約率のプレッシャーが厳しく3か月で辞めたテレアポ、海外に行く資金を貯めるための短期集中テレオペ、六本木のマジックバーでのアシスタント……思い出せるだけでも、さまざまな「働く」を経験しました。

大学院に進学して、臨床心理士の資格をとってからは、スクールカウンセラーや心療内科・精神科でカウンセラーとして働くようになりました。

そして、就職して今に至るまで「働く」が続いています。

 

「People’s relations to their work」というタイトルで、人と仕事の関係性について書かれた論文があります(Wrzensniewski et al, 1997)。

そこには3種類の関係が挙げられています。

1つ目は、Job(労働)で、充足感などはなく、生活に必要な金銭、物質的な対価や報酬のためのもの(「仕事は生きる糧」という感じでしょうか)。

2つ目は、Career(キャリア)と呼ばれ、昇進や社会的地位、権力や特権を獲得するため、また自己成長や周りからの承認を得て自己肯定感を向上するためのもの。

3つ目は、Calling(天職)で、金銭的な目的や社会的地位のためにするのではなく、働くことそれ自体が目的になっており、仕事そのものが報酬、そして自分の仕事によって世界がよくなっていくと感じられるような意義を感じられるもの。自分の人生にとってなくてはならないもので、自分らしさを感じるためにも大事なものとされています。

自分の「働く」を振り返ってみたときに、あなたと仕事の関係は、どれに当てはまりますか?

どれか1つにすっぽり当てはまる、という人もいるかもしれませんし、全部に当てはまるけれど、割合は3つのうちのどれかが大きいという人もいるかもしれません。

わたしも、3つの要素どれも実感する瞬間がありますが、研究や専門職という仕事柄、四六時中、研究テーマや講演のトピックと結びつけながら生活しているようなところもあり、呼吸をするように仕事をしている感覚があり、働いているときに自分らしさを実感することも多く、Callingという面が強いように思います。

娘の出産前後も、すっぱり休んで産休育休をとるよりは、研究や執筆を続けながら、働く時間をもち続けることが、むしろ子育ての時間も豊かにしてくれていました。

これまでの研究では、Callingに仕事をしている人は、健康で、仕事の満足度も人生の満足度も高いという特徴があることが示されています。

Callingの一番の特徴は、その仕事に目的や意味、意義を感じられることとされているので、「働く」をCallingだと感じられるようになるために仕事に意義を見出すアプローチが模索されています。

わたしにとって、「働く」はCallingという面が一番強いのですが、そんな自分にブレーキをかけるかのように言い聞かせているフレーズがあります。

それは、「熱意が仕事の邪魔をする」というものです。

わたしの場合は、熱くなりすぎると、視野が狭くなったり、的確な判断ができなくなったり、振り返ったときに、むしろ自分が納得できるような仕事ができなくなると実感しているからです。

Calling研究でも、よい面だけでなく、注意すべき点も見えてきています。

仕事をCallingと強く捉える人は、強い使命感のもと、長い時間働きすぎたり、自分の心理的負担を顧みずに仕事に打ち込む結果、心身の健康を損ねてしまうことがわかってきたのです。

また、志高くあればあるほど、働く自分のアイデンティティーが壊れてしまったり、理想が打ち砕かれて、バーンアウトして、離職していく場合も多いことがわかっています。

使命感をもてることも、志があることも、とても大事ですが、自分自身のことも大事にするためにも、「働く」だけに自分らしさをゆだねないほうがよさそうです。

「働く」以外の領域でも自分らしさを感じられる場面をもつことが、「働く」も、そして、私たちの人生をも豊かにしてくれるのかもしれません。

【参考文献】

・Wrzesniewski, A., McCauley, C., Rozin, P., & Schwartz, B. (1997). Jobs, careers, and callings: People’s relations to their work. Journal of research in personality, 31(1), 21-33.

関屋 裕希(せきや ゆき)
博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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