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メンタルケア

働く私たちのポジティブなメンタルヘルスを考える -ワーク・エンゲイジメントとエンゲージメント-

2023.2.28

こちらの記事はLIFE IS LONG JOURNAL様より許可を得て転載しております。
https://life-is-long.com/article/5643


私は普段、「働く人のメンタルヘルスを専門領域にしています」と自己紹介しているのですが、皆さんは「働く人のメンタルヘルス」というフレーズを聞いたとき、どんな言葉が連想されますか?

うつ状態などのメンタルヘルス不調や休職といった言葉が浮かんできたかもしれません。

ともすると、ネガティブなイメージのある「メンタルヘルス」ですが、そのまま日本語に訳すと、「精神的健康」となり、悪い状態もありますが、良い状態も含まれます。

「ポジティブ・メンタルヘルス」というと、印象が変わるかもしれません。

働いているときのポジティブなメンタルヘルス状態というと、皆さんにとっては、どのような場面や経験が思い浮かぶでしょうか?

 

働く人のポジティブなメンタルヘルスの状態を表す概念として、ワーク・エンゲイジメントという概念があります。

ワーク・エンゲイジメントは、仕事に誇りを持ち、エネルギーを注ぎ,仕事から活力を得ていきいきしている状態を指しています。

熱意(「仕事に誇りややりがいを感じている」)、活力(「仕事から活力を得ていきいきとしている」)、没頭(「仕事に熱心に取り組んでいる」)の3つの特徴がそろった状態のことです(図)。

図.ワーク・エンゲイジメントの3つの特徴

この概念は、長年、バーンアウト(燃え尽き症候群)の研究をしてきたユトレヒト大学のシャウフェリ教授が学術用語として定義したものです。

2015年に、自分の研究にアドバイスをもらうために、シャウフェリ教授のもとを訪れたときに、この概念が生まれた背景を尋ねたところ、「バーンアウトしていないからといって、必ずしも幸せだとは限らない。本当の幸せを考えるためには、バーンアウトを低減させることとあわせて、仕事でいきいきした状態を高める必要がある」と考えたことがきっかけだったと教えてくれました。

ネガティブなものを減らすだけではなく、ポジティブなものを増やしていくアプローチもあわせて使っていく、ポジティブ心理学の興隆も関係していそうです。

ワーク・エンゲイジメントを高めるためには、以前の記事(ジョブ・クラフティングで自分の仕事をデザインする (life-is-long.com))も参考にしていただけたらと思います。

少し、話は変わりますが、最近「エンゲージメントサーベイ」をしている企業が増えています。

皆さんの会社でも実施されているかもしれません。

2019年頃から、経団連が、優秀な人材の定着や、働きがいと経済成長の両方の達成(SDGs目標8とも重なる)が求められていることを理由に「エンゲージメントの向上」を掲げたことも各社がエンゲージメントに注目する後押しをしていると思います。

私も、エンゲージメントサーベイの事後対策について相談を受けることがありますが、よくよく話を聞いてみると、「エンゲージメント=ワーク・エンゲイジメント」というわけではないようなのです。

実際の項目を見せてもらうと、「エンゲージメントサーベイ」におけるエンゲージメントは、企業と個人の強い結びつきを意味することが多く、職務満足や組織へのコミットメント、組織への愛着などが調査項目に挙がっています。

(もちろん中には、仕事の意義や熱意や活力などの項目が含まれている場合もありますが)

 

ワーク・エンゲイジメントは、仕事そのものに対するエンゲイジメント、エンゲージメントは、会社組織に対するエンゲージメントと区別できるのかもしれません。

 

私たち自身は、仕事とどんな関係を築きたいのか。

所属する組織とは、どんな関係を築きたいのか。

 

たしかに上の2つの問いは重なり合う部分もありますが、分けた方が考えやすいと思います。

自分で自分の「働く」をポジティブな状態へと変えていくためにも、大事な問いかもしれません。

 

【参考文献】

Schaufeli, W. B., Salanova, M., Gonzalez-Romá, V., Bakker, A. B.(2002). The measurement of engagement and burnout: A two sample confirmative analytic approach. Journal of Happiness Studies, 3, 71- 92.

関屋 裕希(せきや ゆき)
博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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