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メンタルケア

「自律的な働き方」のダークサイド

2024.2.29

こちらの記事はLIFE IS LONG JOURNAL様より許可を得て転載しております。
https://life-is-long.com/article/6091


この3年、新型コロナウイルス対策もあり、リモートワークという働き方がぐっと広まりました。
私自身、2020年4月の初めての緊急事態宣言以降に、初めてオンラインで会議をしたり
最初はドキドキしながら、オンライン講演をしたりしましたが、今ではそれがメインの働き方になっています。
当時、第1子を妊娠していた身としては、つわりの時期に出勤の負担なく働けたことや、発熱した娘の保育園からの呼び出しや受診に自宅から行けたことというのは、とても有難かったです。
リモートワークという働き方は、ワークとライフの両方を充実させてくれます。
また、場所を選ばずに働けるようになったことで、ワーケーションという過ごし方ができたことも魅力のひとつです。
自分の本籍地の山口県萩市や、京都、石垣島など、ふだん住んでいる東京とは異なる土地に2週間ほど住みながら仕事をしたことは、多くの体験と気づきをもたらしてくれました。
オンラインで仕事ができる環境が整って、働く時間や場所が選べるようになったこともあり、私たちの働き方は、決まった時間に決まった場所でみんな一緒に働くという規律的な働き方から、「自律的な働き方」へと変化を遂げています。
こんな風に、働く時間や場所が選べることというのは、就活市場や転職市場における企業の魅力のひとつにもなっています。

ただ、こうした自律的な働き方が健康にとって必ずしも良いものかというとそうでもない、というのは、私自身も体感的に経験していることです。
在宅勤務をしている労働者を対象とした調査の中で、在宅勤務にまつわる不安やストレスの理由を尋ねたところ、在宅勤務をする人の51.6%が「出勤時の勤務より、オンオフがつけにくい」ことを挙げています。
在宅勤務は、私たちがリラックスして休んだり、趣味など自分の好きなことをしたり、睡眠をとったりしている生活空間に「働く」という行為が流れ込んできたようなものなので、出勤しているときには、移動の時間で自然に切り替えられていたものが、区切りをつけることが難しくなって仕事モードを引きずりやすくなってしまいます。
働きすぎにも要注意。
ついつい遅い時間まで仕事をしたり、休日にもPCを開いてしまう…ということも起こりやすい環境です。
在宅勤務になって運動不足になった、という声もよく聞きます。
働き方が自由になった分、より一層、健康やモチベーションに対する自己管理が求められるようになったとも言えます。

高負荷の仕事をこなそうとするがために生じる問題行動のことを、「自己を危険にさらす働き方(Self-Endangering Work Behavior)」と呼んで、研究がされています。
目先の仕事を達成するためには有用かもしれませんが、健康や長期的な職務遂行能力を損なう危険がある働き方のことです。
具体的には、仕事の強化(負担だと感じるペースで働く)、余暇に及ぶ仕事と待機姿勢(余暇のときも自分の上司、同僚、顧客から連絡を受けられるようにする)、レクリエーションの断念(余暇の活動を取りやめて、その代わりに働く)、疾病就業(病気でも職場に行く)、パフォーマンス向上のために何かを摂取する(純粋に楽しむ目的を超えて何か(たとえば、カフェイン、ニコチン、アルコール、薬、その他)を摂取することにより、仕事のパフォーマンスを上げる)といった内容が含まれています。
もともとは教員など、仕事に熱意をもって打ち込むあまりに、健康を害するような働き方をしてしまうケースのために提唱された概念ですが、リモートワークやフリーランスなど、これから一層定着していくであろう自律的な働き方にも当てはまる懸念です。

これまでは、職場のメンタルヘルス対策のひとつとして、企業が社員に対して、セルフケアスキルを身につけることを目的とした研修機会を提供するなどしてきましたが、ひとりひとりが、もっと積極的にセルフケアスキルを身につける必要性があるかもしれません。
今後は、働き始めるよりも前、学生時代などにセルフケアのスキルを身につけておくことも、自分の健康を守るうえで大切になっていくでしょう。

【参考文献】
・コロナ禍で在宅勤務を経験している労働者が感じるストレス | E-COCO-J | 新型コロナウイルス感染症に関わる全国労働者オンライン調査 | 精神保健学/精神看護学分野 東京大学大学院医学系研究科

・Yokoyama K, Nakata A, Kannari Y, Nickel F, Deci N, Kause A, Dettmers J: Development of the Japanese Version of the Self-Endangering Work Behavior (J-SEWB) Scale. Juntendo Medical Journal 68(3):242-250, 2022.

関屋 裕希(せきや ゆき)
博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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