メンタルケア
納期が厳しくて肉体的にも精神的にもギリギリ、もう限界!
「悩みを摘みとる言葉」より
2019.10.4
「能力のない人間」だと思われそうで
「納期が厳しくて肉体的にも精神的にもギリギリの状態。
いっぱいいっぱいのうえにさらに無理して働いているので、最近はポカミスも多くなってきた。他の人に手伝ってほしいが、上司に言うと「能力のない人間」だと思われそうで言えない。」
これはIT系や金融系の業種に勤めている男性に多い相談ケースです。
誰かと仕事を共有しておらず、担務が属人化されており、ご自身で「できない」と言い出さない限りは、負担がすべて自分にのしかかってきてしまうというパターンが多いようです。
最初は仕事の話はせずに「ちょっと身体がしんどい」とか「ちょっと眠れなくて」などと体調の話から入るのもこのタイプの特徴です。
カウンセラーは、ご相談者の話しぶりで「仕事のプレッシャーだな」と察しますが、始めは「体調の問題」として受け止め丁寧にお聴きします。すると、「しんどい」「きつい」「ちょっと」という漠然とした言葉が具体的なものに変換されていくのです。
たとえば、どのような体調不良なのか、「何を食べても味がしない」とか、「寝ても直ぐ目が覚める」とか「朝起きると動悸がする」といった具体的な状況が語られ始めます。
ここまで状況を聞いてもらうと、相談者もかなり本題に入りやすくなります。
問題はこの先です。
こうした相談者の多くは、たいていまじめで責任感が強く「頑張りさえすれば」「投げ出せない」と思っていますから、相談者にとって「期待に応えられない」「できない」「無理」ということばを口にすることはものすごく勇気のいる行為なのです。それが簡単に口にできる状況ならうつ状態にはなりませんね。
だからこそ、「無理です」というその一言が本人の口から出せるようになると、そこから自体が一気に解決にむけて動き出します。
私たちは、まずそのスタートラインに立てるよう、認知や行動の変容に向け言葉をかけていきます。
我慢に我慢を重ね、限界を超えてしまっている人は、精神的にも肉体的にもギリギリになり、思考や視野が狭まったり、柔軟性に乏しくなってしまうことがあります。
選択肢が狭まると、更にマイナス思考になり、「もうだめ」「全て自分のせい」と失敗ばかりに目が向き、自己肯定感が下がり、できてきたことを見失いがちになることがあります。
そんな人には「80%もできてるんだ。こんなに厳しい状況の中で。それはすごいことだね。よく頑張ったね」と「できてる部分」に焦点をあてるようにします。
大切なことは「100%でなければ意味がない」という呪縛からまずは解き放たれること。
80%できている自分を認めることができれば、残りの20%をどうしたら埋められるかという冷静な判断ができるようになり、たとえば「上司に相談すること」も選択肢の一つであるという回答にたどりつくことができます。
一例ですが、実際には正直に報告したほうがかえって手当が早くでき、信頼されたというケースもありました。具体的な進行状況を申し添えて報告した人の多くは、「じつは上司も心配してくれていたらしいことがわかった」「すぐに仕事を他の人に振り分けてくれて無事納期に間に合った」など良い結果を生んでいます。
自分だけできなくてもダメじゃない。みんな違う。
あるとき、「体がつらい。でもみんな寝てないんで、自分だけ寝るわけにはいかない」という男性相談者に対し、うちのカウンセラーが「ストレスの受け方はみんな違うんだよ。三日寝てなくても平気な人もいるかもしれないけど、平気じゃない人もいる。でも平気じゃないからダメなわけじゃない。他の部分ですぐれているところがあるかもしれない。だからみんなと同じじゃなくていいんだよ」と伝えました。
言葉を失った相談者に「がんばられましたね。」と一言声をかけたところ、その相談者は堰を切ったように泣き出したそうです。ぎりぎりのところでご相談をされた様子が伝わりました。
「泣く」というのはとても大事な行為です。
カウンセリングにおいては、「泣く」ことは、感情の発露であり、発散でもあります。「自分がどんなに頑張ったか、どんなに我慢してきたか」カウンセラーの言葉で気がつくこともあります。カウンセラーは「泣く」相談者に寄り添います。
みなさんも、もし目の前で家族や友人が泣き出すことがあったりしたら、あわてずにただ黙ってそばにいてあげてください。「この人の前でなら泣ける」という存在になることが、どんなに饒舌な慰めの言葉よりも大切なことなのです。
― 2008年発刊「悩みを摘みとる言葉」山﨑 敦 著(扶桑社)より抜粋。
今回の掲載に当たり一部改定しています。〈2019年10月4日〉
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1967年防衛大卒 防衛庁海上自衛隊に入隊し、
第6航空隊司令、下総教育航空群司令などを歴任し1999年12月に退職。
(株)パソナ入社。かつて3名の部下を自殺で失った経験から、2001年1月、自殺防止を目指したメンタルヘルスケアを事業とする(株)セーフティネットを設立。以降、会員企業の社員、家族から毎月3,000件を超える相談を受けてきた。