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メンタルケア

骨折した人だってギプスとっていきなり全力疾走は無理。うつ病だって同じことだよ。

「悩みを摘みとる言葉」より

2019.11.1

うつ病と診断された部下が復帰してきたのだが

「うつ病と診断された部下が復帰してきたのだが、どう対応したらいいのかわからずに困っている」という相談も増えています。「復職可能の診断書をだされたけれど対処方法まで書いてないんですが」「サポートするために周囲の人に言ってもいいんでしょうか」などなど。たとえば内臓の病気をしたとか、怪我をしたとか、身体の病気で休職した人が復帰してきてもこれほど対応に悩むことはないでしょう。

「うつといっても、脳の神経伝達物質が足りなくなって起こる生理学的な症状なんだから、他の病気と一緒ですよ。同じように迎えてください」と言うのですが、そうはいっても、「こころの病気」だと思うと迎えるほうもナーバスにならざるをえないでしょう。

まずは、本人の状況や希望を確認し、あわせて産業医を通じて、主治医に医療情報提供を求め、具体的に確認していくことです。うつの症状の回復には波があり、いいときと悪いときがあります。見た目だけでは中々わかりにくいため、本人に体調や状態を申告してもらったり、チェック表などを用いながら、フォローアップを行い、再発を予防します。

「あせらず」「あわてず」「あきらめず」「他の人と同じように」

問題は、医師の見解と本人の認識にズレがある場合です。ありがちなのは、医師からは「最初は控えめに」と言われているのに、本人が「大丈夫。元通りの仕事をやらせてほしい」と主張するケースです。

うつ病は再発率が高い疾病です。職場復帰の際に「はやく役に立ちたい」「迷惑をかけた分、頑張って働きたい」という焦燥感を抱える方、「遅れてしまった」「居場所がない」と孤独を感じる方、「皆からどう思われるだろう」「馴染めないのでは?」「元通りに働ける気がしない」と不安を抱える方、など、様々な感情が沸き起こります。再発のリスクを回避できるよう、本人の気持ちを理解しつつ上司や周囲はサポートを継続しましょう。

例えば、「足を折った人だってギプスを取っていきなり全力疾走はできないよね」「主治医の指示を守るのが、結局は回復への最短距離だと思うよ」「いずれはバリバリやってもらうからね」そんな言葉をかけてあげるだけで本人は随分と救われるはずです。

よく私たちは「三つのAを忘れないで」と言ったりします。
「あせらず」「あわてず」「あきらめず」
うつ病に限らず有効な言葉だと思いますが、うつ病のときには特に心にとめておきたい言葉です。

中には「気を遣いすぎ仕事量を大きく減らしたら、本人の希望や状況と大きく食い違い再発した」というケースもありますが、「私たちはあなたを必要としているんだよ」という気持ちさえしっかり相手に伝え、話し合いができていれば、このような事態にはならないはずです。

仕事量と同時に配慮しなければならないのは、「どのように接するか」という精神的サポート面です。
これは「特別扱いをしない」「普通に接する」というのがいちばんなのですが、これがまたなかなか難しいようです。

チームの一員だということを本人に伝わるような声かけは必要ですね。と言うと、「何を言ったらいいのか」と悩まれる方がいるのですが、本当に普通のことでいいのです。「おはよう」でも「ご飯たべよう」「おつかれさま」でもなんでもいい。何かいいことを言ってやろうと頭の中でシミュレーションしてから声をかけたりするとかえってぎこちなくなります。「他の人と同じように」――この一言に尽きます。

そもそも従来型のうつになりやすいと言われている人は「頑張る人」

最近はうつに関する本や資料もたくさん出回るようになり、中途半端に知識が先行しているきらいがあります。たとえばこの相談者も言っていますが「うつは励ましてはいけない」という常識もそのひとつです。
「うつの人に『頑張れ』って言っちゃいけないんだよね」などと話しているのをよく聞きますが、それはちょっと杓子定規すぎる解釈です。「頑張ること」は決して悪いことではありません。そもそも従来型のうつになりやすいと言われている人は「頑張る人」なのですから、そこを否定されたらかえってどうしたらいいのかわからなくなってしまいます。

「うつは励ましてはいけない」というのは「頑張ってはいけない」という意味ではなく、「頑張るのは悪いことじゃない。でも頑張りすぎてはいけないよ」という意味なのです。

「うつ病は誰でも罹る可能性がある」という認識がひろまってきていると書きましたが、実際にはまだまだ「元気な人はならない」「こころの弱い人がなるんだ」「自分とは関係ない」と思っている人が大半です。

ひとつの職場から「うつ病の患者」が出たというのは、考えようによっては「もう二度とうつ病をださないようにする」ために皆で考える良いチャンスなのかもしれません。職場全体で「うつ病」についての理解を深め、他人事ではなく、自分にも起こりうる問題として考えていくことは大きな教訓となるはずです。

― 2008年発刊「悩みを摘みとる言葉」山﨑 敦 著(扶桑社)より抜粋。
今回の掲載に当たり一部改定しています。〈2019年10月4日〉
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山﨑 敦 氏
株式会社セーフティネット 取締役会長 

1967年防衛大卒 防衛庁海上自衛隊に入隊し、
第6航空隊司令、下総教育航空群司令などを歴任し1999年12月に退職。
(株)パソナ入社。かつて3名の部下を自殺で失った経験から、2001年1月、自殺防止を目指したメンタルヘルスケアを事業とする(株)セーフティネットを設立。以降、会員企業の社員、家族から毎月3,000件を超える相談を受けてきた。

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