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ライフスタイル

どんな行動をとるかが自分を形づくり、環境を変えていく

2022.11.30

こちらの記事はLIFE IS LONG JOURNAL様より許可を得て転載しております。
https://life-is-long.com/article/5536


 

徐々に言葉を覚え始めた1歳8か月になる娘の最近の口癖はこうです。

「てつだって」

ソファに上るのも、ごはんを食べるのも、服を着るのも、高いところにある物をとってほしいときも。

1日に何度も繰り返します。

その裏に、彼女の「主体は自分」という感覚があるのだと気づいて感動を覚えました。

「やるのは自分、だから『てつだって』」と。

同じころから「じぶん(でやる)」という言葉もよく出るようになりました。

そこで思い出したのが心理学者Banduraの「行為主体性」という概念です。

Agencyという言葉の訳語である「行為主体性」には3つの要素があります。

1つ目は、「予見性」(foreseeing)です。
将来のことを考えて、自分の目標を選び、計画を立て、現在の自分の行動を選択することを指します。
将来から逆算して行動を決めることで、私たちの行動に一貫性がもたらされます。

2つ目は、「自己反応性」(self-reaction)です。
その時々の状況に対処して、自分を動機づけたり、律したりして自分の行動を管理・調整することを指します。

3つ目は、「自己省察性」(self-reflection)です。
自分の思考や行動を客観的に振り返ったり、自分の価値観を自己検証することを指します。

こうした振り返りをすることで、私たちは、競合する価値観のもとでも行動を選択することができるのです。

この行為主体性(Agency)の背景には、「人、環境、行動は相互に影響を及ぼし合う」というコンセプトがあります。

以前は、行動は人と環境の相互作用で決まる(環境によって行動が規定され、人が行動を決める)と考えられていましたが、Banduraは、行動もまた、人や環境に影響を与えると捉えたのです。

私たちは自分がどう行動するかには注目しますが、その行動が周囲の環境や自分自身に影響を与えている、という点は意外と見落としがちです。

私たちの行動は、単なるその時点での行動として完結しているのではなく、とった行動が自分を形づくり、自分が所属する集団や文化にも影響を及ぼしているのです。

娘の行動ひとつひとつが彼女という人を形づくり、保育園や私たち、そして社会にも影響を与えているのだなと思うと、尊さを感じます。

また、それは自分にも当てはまることであり、自分がぽつんとただ1人で存在しているのではなく、世界と接していることを実感できます。

【参考文献】

Albert Bandura. Toward a Psychology of Human Agency: Pathways and Reflections. Perspectives on Psychological Science 2018, Vol. 13(2) 130–136.

 

関屋 裕希(せきや ゆき)
博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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