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メンタルケア

「助けて」と言える人は強いひと

2021.8.30

こちらの記事はLIFE IS LONG JOURNAL様より許可を得て転載しております。
https://life-is-long.com/article/3501

「助けて」と言うことをテーマにした本の分担執筆を引き受けたことがあります。
心理学では、「援助要請」や「援助希求」という言葉で研究がされています。

必要なときにサポートを求められるのは、大事なこと。
「助けて」と言える人は強いひと。

そう本気で思っていますし、メンタルヘルスの研修でもそう伝えています。

私たちは生きていく中で、日々、難しい場面や状況にぶつかります。
苦しい状況が続けば、身体や心の健康に影響が出てくるのは自然なことです。

眠れない、食欲がなくなる、頭や肩や腰が痛くなる、めまいや動悸、耳鳴りがする、気分が落ち込みやすくなる、悲観的になる、イライラしやすくなる……など。
そんな心身への影響を和らげてくれる要因のひとつが、周囲からのサポートです。

家族や友人、上司や同僚、さまざまな領域の専門家、自治体などの公的機関、さまざまな民間のサービスも含めて、周りからサポートを得られていれば、難しい状況にあったとしても心身の健康への影響を減らすことができます。

SOSを出して、サポートしてもらえる環境を整えれば、難しい場面も乗り越えやすくなる。
その事実を十分にわかっているはずの私にとっても、「助けて」というのはたやすいことではありません。

「大丈夫?」
と聞かれれば、反射的に
「大丈夫です!」
と答えてしまう。

仕事が山積みのとき、
「何か手伝おうか?」
と誰かが声をかけてくれても、
「自分でやれるから大丈夫です」
と答える。

援助要請がためらわれるのは、社会心理学の知見では、支援を受けること自体が自尊感情の脅威になりうるためだとされています(Fisher et al., 1982)。

助けられると、自分が弱い存在になったような感覚や、他者から侵入されているような感じがあるものです。

私自身も、人に弱いところを見せることが苦手で、抵抗があったのだと思います。

ただ、過去に一度、強制的に大号泣したことをきっかけに、少しゆるんだ気がしています。

その夜は、出張先の大阪で、小学校時代の友だちとワインバーで飲んでいました。

友だちに、ぐだぐだとそのころ迷っていたことを話していたら、カウンターの奥にいた見知らぬ女性から鋭い声が飛んできたのです。

あっけにとられて何も言えずにいると、追い討ちをかけるように、強い口調で次から次に……そして、次の瞬間、もっと驚くことが起きました。

自分の目から涙が出てきたのです。

それだけではなく、嗚咽まで。

心底びっくりしながらも、懸命に泣きたもうとしたのですが、お酒が入っていたせいなのか、その甲斐もむなしく、どうにもこうにも止まらない。

まったくコントロールがきかず、声をあげて泣き続けました。

初めて訪れたお店で、店主にも、友だちにも申し訳ないやら、恥ずかしいやら……。

その場がどうやって収束したかは覚えていないのですが、店主が、

「これはサービスね」

と出してくれた最後の一杯を飲みながら、まだ、ひっくひっく言っていた覚えがあります。

ホテルに戻っても泣き続けて、翌朝には、これまで見たことがないくらい目がパンパンに腫れ上がっていました。

まさに、大惨事。

けれど、人前で泣くのは、予想に反して嫌な感じではなく、むしろスッキリした感じさえありました。

携帯を見てみると、バーの店主からは、温かいメッセージが届いており、友だちとは、それまで以上にいろんなことを話せる仲になりました。

期せずして、大号泣したことで、関係がぐっと深まったのです。

私の場合は、自分から「助けてほしい」と口に出すところからではなく、半ば強制的に自分の弱いところをさらけ出す体験がきっかけだったわけですが、どこか肩の力が抜けたせいか、普段の生活も、楽に過ごせるようになりました。

うまくいかないとき、苦戦しているとき、自分が「出来ない」ことに直面しているとき、打ちひしがれたとき、落ち込んでいるとき、自分のことが嫌になったとき。

いきなり「助けて」と言うことが難しくても、「ちょっとつらいんだ」と漏らすところからでも。

弱い部分を人に見せる力。

油断して素をさらす力。

そんな「助けてもらう力」を鍛えてこそ、私たちは長い人生を楽しめるのかもしれません。

もう一度言います。

「助けて」と言える人は強いひと。

【参考文献】
水野 治久監修 (2019) 事例から学ぶ 心理職としての援助要請の視点 -「助けて」と言えない人へのカウンセリング- 金子書房.
Fisher, J.D., Nadeler, A., &Whitcher-Alagna, S. 1982. Recipient reactions to aid. Psychological Bulletin, 91, 27-54.

関屋 裕希(せきや ゆき)
博士(心理学),臨床心理士,公認心理師

1985年福岡県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士課程を修了。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野に就職し、研究員として、労働者から小さい子をもつ母親、ベトナムの看護師まで、幅広い対象に合わせて、ストレスマネジメントプログラムの開発と効果検討研究に携わる。 現在は「デザイン×心理学」など、心理学の可能性を模索中。ここ数年の取組みの中心は、「ネガティブ感情を味方につける」、これから数年は「自分や他者を責める以外の方法でモチベートする」に取り組みたいと考えている。 中小企業から大手企業、自治体、学会でのシンポジウムなど、これまでの講演・研修、コンサルティングの実績は、10,000名以上。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)など。

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