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がんになっても生き生きと自分らしくあるために・・・

~「乳がんサバイバーに対するヨガの効果」システマティックレビュー論文紹介~

2020.1.24

今回は、ヨガが心身に与える影響に関する論文を紹介したいと思います。
昨今、ヨガ人口は年々増えており、最新の報告では、米国では月に1回以上ヨガを実践する人は3,670万人*1と発表されています。日本のヨガ人口は2006年時におよそ33万人、2010年の報告ではおよそ100万人*2、2017年には590万人*3、とわずか10年で20倍近くに増加しています。

実施人口の増加に伴い、ヨガの効果についての科学的な研究も増えてきています。今回はその中で、「乳がんと診断された女性に対するヨガの効果」についてのシステマティックレビュー※をひとつ紹介したいと思います。

 この研究は2017年のCochrane Database Syst Rev. (コクランデータベース システマティックレビュー)に掲載された『乳がんと診断された女性の健康関連の生活の質(QOL)、メンタルヘルス、がん関連の諸症状の改善のためのヨガ』*4という論文です。

今回ご紹介する研究は「乳がん」と診断された女性を対象としています。乳がんは、多くの女性が罹患するがんで生存率の高いがんです。そのため診断後に長期にわたって精神的な苦痛や慢性の痛み、疲労感などを抱えるケースも多いことが特徴です。ヨガはそれらの諸症状を改善する効果があるかもしれないとの仮説のもと、行われた複数の研究をまとめたシステマティックレビューです。

※システマティックレビュー(文献をくまなく調査し、 ランダム化比較試験のような質の高い研究データを出版バイアスなどのデータの偏りを除き分析を行った研究のこと)

≪研究方法≫
複数の科学論文のデータベースを中心に臨床試験登録プラットフォーム、アメリカ臨床腫瘍学会や統合医療学会などの会議議事録を検索し、2016年1月時点で選択要件を満たした研究をピックアップ。結果、24件で合計2166人の女性を対象とした研究が見つかった。研究には、化学療法、放射線治療など現在進行形で治療中の女性も対象者として含まれている。
研究の選択要件は、ランダム化比較試験で、①転移性または非転移性の乳がんと診断された女性を対象として、ヨガをした群vs療法なし群または他の療法をした群で比較した研究であり、且つ ②少なくとも1つ以上の主観的評価(健康関連の生活の質、抑うつ、不安、疲労感、睡眠障害)を主要アウトカムとしているものとした。ヨガの形態は問わないが、マインドフルネスストレス軽減法などの多様性を含む手法は除外した。

≪研究結果と結論≫
ヨガの実施は、療法なしと比べて健康関連QOLの改善や疲労と睡眠障害の軽減に、心理社会的および教育的な介入方法と比べて抑うつ・不安、疲労を軽減することが中程度のエビデンスレベルで推奨できる。エビデンスレベルは低いが、ヨガは他の運動介入と同程度の効果があり他の運動プログラムの代替としても実施され得る。乳がんと診断された女性は、QOL(生活の質)やメンタルヘルスの改善のために、がんの標準治療に加えて補助療法としてヨガを行うことが有効であるといえる。

日本国内の乳がんサバイバーを対象としたパイロット研究

日本人を対象としたヨガの効果について報告されているものとして、筆者が2012年に行った日本国内の乳がんサバイバーを対象とした1アーム(群間比較ではなく単群の介入前後の比較)のパイロット研究があります*5。その中で、週1回12週間のヨガ介入後にがん関連の疲労に対して有意な改善が見られました。

がんという疾患そのものや取り組んできた一連の治療の副作用から、がんサバイバーにとって「疲労」「倦怠感」は、時に日常生活にも支障をきたすほど深刻です。乳がんサバイバーは再発防止のために運動することが推奨されているにもかかわらず、疲労や倦怠感が原因で運動を実施できない方も多くいます。ヨガはそんな方にも優しくゆったりとしたペースで行うことができますので、治療後の体力や筋力に自信がないという方も自分のレベルに合わせて始めてみるのも良いでしょう。また、研究として数字に表せる効果とは別になりますが、研究参加者へのインタビューなどから、ヨガ教室への参加は「同病の仲間との時間と空間の共有」となり、日常生活への励みや自身の活動へのモチベーションとなっていることが示唆されました。現在筆者が主宰している「前立腺がんサバイバーのからだづくり教室」でも同様に、週1回の頻度で筋力トレーニングやヨガを「仲間と一緒に行う」教室が、治療に関する情報交換や励まし合い、日常生活の悩みを吐露できる場、コミュニティとして機能していることも明らかとなっています。

「がん」に罹患したことにより、長期にわたり抱える心身の苦痛を解消し、社会における自身の居場所や役割を再獲得していくことががんサバイバーのQOLの維持にはとても重要です。そのためのサポートを社会全体で行っていくことが今後ますます求められていくでしょう。ヨガの実践は古代から身体への効果はもとより、「心」への効果を主眼に置いています。治療のストレスや、将来や再発に対する不安にマインドが暴走するのをヨガの実践によって制御し、がんになってもその人がその人らしく今この時を生き生きと生きられるよう、がんサバイバー向けのヨガプログラムやヨガ教室もその一端を担っていくことが期待されます。

*1  2016年 ヨガジャーナル&全米ヨガアライアンス調査(2017年3月発表)
https://www.yogajournal.com/page/yogainamericastudy
*2 門倉貴史「急拡大が見込まれる日本のヨガ市場」『マクロ経済分析レポート』2005 年5月 18 日発表

*3 2017年ヨガジャーナル日本版日本のヨガマーケット調査2017 月に1回以上ヨガを実施する人
https://www.7andi-pub.co.jp/pdf/2017/20170307_sevenandi_yoga.pdf

*4  Yoga for improving health-related quality of life, mental health and cancer-related symptoms in women diagnosed with breast cancer. Cramer. H. et. Cochrane Database Syst Rev. 2017 Jan; 2017(1)

*5 日本人乳がんサバイバーの倦怠感と身体活動量:12週間ヨガ介入プログラムの結果. 山内やよい, 中村好男. 体力科学64巻4号, 2015

山内 やよい 氏
早稲田大学人間科学部スポーツ科学科(精神生理学専攻)卒業。2000年アメリカでヨガに出会う。自身の経験から、2006年に当時まだ少なかった子連れヨガクラスを立ち上げる。月間200名を超える生徒と関わりながら、講演、啓蒙活動を行う。その後、都内フィットネスクラブ運営に関わる中、”健康弱者への運動支援” およびヨガの可能性への意識が高まる。大学院進学後の2012年、カナダカルガリー大学へ留学。海外におけるヨガの効果検証研究を参考に、日本国内初の乳がんサバイバーを対象としたヨガの臨床試験を行う。博士学位取得後、大学の正規科目としてヨガを伝えながら、スポーツ科学の知見に基づいたオリジナルのメソッドを開発、対象者に合わせたプログラムを展開している。身体に対してはもちろん、心への効果についてさらなるヨガの可能性を研究するため、毎年渡印し研鑽を続けている。
博士(スポーツ科学)
早稲田大学クローバルエデュケーションセンター/ 杏林大学保健学部講師

・乳がんサバイバー向けヨガプログラム
・前立腺がんサバイバー向けヨガプログラム
・オリンピック代表アスリートのコンディショニングプログラム
・高齢者介護予防講習
・企業向けウェルネス講習(三鷹市、港区、世田谷区)
・都内病院医療者向けストレス対処ヨガプログラム
・大学アスリート向けリカバリーヨガプログラム
・Jリーグトップチームリカバリーヨガプログラム etc.
              
健康運動指導士 / 介護予防運動指導員
国際総合生活ヨガ(沖ヨガ)指導員
RYT200

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